「野々宮さんの所か」
「いや、野々宮さんじゃない」
「じゃ……」と言いかけてやめた。
「君、知ってるのか」
「知らない」と言い切った。すると与次郎が少し前へ乗り出してきた。
「どうもよくわからない。不思議な事があるんだが。もう少したたないと、どうなるんだか見当がつかない」
三四郎は、その不思議な事を、すぐ話せばいいと思うのに、与次郎は平気なもので、一人でのみこんで、一人で不思議がっている。三四郎はしばらく我慢していたが、とうとう焦《じ》れったくなって、与次郎に、美禰子に関するすべての事実を隠さずに話してくれと請求した。与次郎は笑いだした。そうして慰謝のためかなんだか、とんだところへ話頭を持っていってしまった。
「ばかだなあ、あんな女を思って。思ったってしかたがないよ。第一、君と同年《おないどし》ぐらいじゃないか。同年ぐらいの男にほれるのは昔の事だ。八百屋《やおや》お七《しち》時代の恋だ」
三四郎は黙っていた。けれども与次郎の意味はよくわからなかった。
「なぜというに。二十《はたち》前後の同じ年の男女《なんにょ》を二人並べてみろ。女のほうが万事|上手《うわて》だあね。男は馬鹿にされ
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