フさ」と言う。
「二十年まえに会ったというのは夢じゃない、本当の事実なんですか」
「本当の事実なんだからおもしろい」
「どこでお会いになったんですか」
 先生の鼻はまた煙を吹き出した。その煙をながめて、当分黙っている。やがてこう言った。
「憲法発布は明治二十二年だったね。その時森文部大臣が殺された。君は覚えていまい。いくつかな君は。そう、それじゃ、まだ赤ん坊の時分だ。ぼくは高等学校の生徒であった。大臣の葬式に参列するのだと言って、おおぜい鉄砲をかついで出た。墓地へ行くのだと思ったら、そうではない。体操の教師が竹橋内《たけばしうち》へ引っ張って行って、道ばたへ整列さした。我々はそこへ立ったなり、大臣の柩《ひつぎ》を送ることになった。名は送るのだけれども、じつは見物したのも同然だった。その日は寒い日でね、今でも覚えている。動かずに立っていると、靴《くつ》の下で足が痛む。隣の男がぼくの鼻を見ては赤い赤いと言った。やがて行列が来た。なんでも長いものだった。寒い目の前を静かな馬車や俥《くるま》が何台となく通る。そのうちに今話した小さな娘がいた。今、その時の模様を思い出そうとしても、ぼうとしてとて
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