ウきへ来て、世話を焼いたり、愛嬌《あいきょう》を振りまいたり、フランス式の髯《ひげ》をつまんでみたり、万事忙しそうである。
やがて着席となった。めいめいかってな所へすわる。譲る者もなければ、争う者もない。そのうちでも広田先生はのろいにも似合わずいちばんに腰をおろしてしまった。ただ与次郎と三四郎だけがいっしょになって、入口に近く座を占めた。その他はことごとく偶然の向かい合わせ、隣同志であった。
野々宮さんと広田先生のあいだに縞《しま》の羽織を着た批評家がすわった。向こうには庄司《しょうじ》という博士が座に着いた。これは与次郎のいわゆる文科で有力な教授である。フロックを着た品格のある男であった。髪を普通の倍以上長くしている。それが電燈の光で、黒く渦《うず》をまいて見える。広田先生の坊主頭《ぼうずあたま》と比べるとだいぶ相違がある。原口さんはだいぶ離れて席を取った。あちらの角《かど》だから、遠く三四郎と真向かいになる。折襟《おりえり》に、幅の広い黒襦子《くろじゅす》を結んださきがぱっと開いて胸いっぱいになっている。与次郎が、フランスの画工《アーチスト》は、みんなああいう襟飾りを着けるもの
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