oかけたことがある。すぐ石段を上って、戸をあけて、銀行の中へはいった。帳面と印形を係りの者に渡して、必要の金額を受け取って出てみると、美禰子は待っていない。もう切り通しの方へ二十間ばかり歩きだしている。三四郎は急いで追いついた。すぐ受け取ったものを渡そうとして、ポッケットへ手を入れると、美禰子が、
「丹青会《たんせいかい》の展覧会を御覧になって」と聞いた。
「まだ見ません」
「招待券《しょうたいけん》を二枚もらったんですけれども、つい暇がなかったものだからまだ行かずにいたんですが、行ってみましょうか」
「行ってもいいです」
「行きましょう。もうじき閉会になりますから。私、一ぺんは見ておかないと原口さんに済まないのです」
「原口さんが招待券をくれたんですか」
「ええ。あなた原口さんを御存じなの?」
「広田先生の所で一度会いました」
「おもしろいかたでしょう。馬鹿囃子を稽古なさるんですって」
「このあいだは鼓《つづみ》をならいたいと言っていました。それから――」
「それから?」
「それから、あなたの肖像をかくとか言っていました。本当ですか」
「ええ、高等モデルなの」と言った。男はこれより以
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