フ親切気はあるだろうと考えている。広田先生の評によると与次郎の頭は浅瀬の水のようにしじゅう移っているのだそうだが、むやみに移るばかりで責任を忘れるようでは困る。まさかそれほどの事もあるまい。
三四郎は二階の窓から往来をながめていた。すると向こうから与次郎が足早にやって来た。窓の下まで来てあおむいて、三四郎の顔を見上げて、「おい、おるか」と言う。三四郎は上から、与次郎を見下《みおろ》して、「うん、おる」と言う。このばかみたような挨拶《あいさつ》が上下で一句交換されると、三四郎は部屋《へや》の中へ首を引っ込める。与次郎は梯子段《はしごだん》をとんとん上がってきた。
「待っていやしないか。君のことだから下宿の勘定を心配しているだろうと思って、だいぶ奔走した。ばかげている」
「文芸時評から原稿料をくれたか」
「原稿料って、原稿料はみんな取ってしまった」
「だってこのあいだは月末に取るように言っていたじゃないか」
「そうかな、それは間違いだろう。もう一文も取るのはない」
「おかしいな。だって君はたしかにそう言ったぜ」
「なに、前借りをしようと言ったのだ。ところがなかなか貸さない。ぼくに貸すと返
前へ
次へ
全364ページ中227ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング