マ《ひょうへん》したそうですねって笑うんだから始末がわるい。おおかた兄《あにき》からでも聞いたんだろう」
「あの女は自分の行きたい所でなくっちゃ行きっこない。勧めたってだめだ。好きな人があるまで独身で置くがいい」
「まったく西洋流だね。もっともこれからの女はみんなそうなるんだから、それもよかろう」
それから二人の間に長い絵画談があった。三四郎は広田先生の西洋の画工の名をたくさん知っているのに驚いた。帰るとき勝手口で下駄《げた》を捜していると、先生が梯子段《はしごだん》の下へ来て「おい佐々木ちょっと降りて来い」と言っていた。
戸外《そと》は寒い。空は高く晴れて、どこから露が降るかと思うくらいである。手が着物にさわると、さわった所だけがひやりとする。人通りの少ない小路《こうじ》を二、三度折れたり曲がったりしてゆくうちに、突然|辻占屋《つじうらや》に会った。大きな丸い提灯《ちょうちん》をつけて、腰から下をまっ赤にしている。三四郎は辻占が買ってみたくなった。しかしあえて買わなかった。杉垣《すぎがき》に羽織の肩が触れるほどに、赤い提灯をよけて通した。しばらくして、暗い所をはすに抜けると、追分
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