ッのわからないとらわれ方である。三四郎はいまいましくなった。そういう時は広田さんにかぎる。三十分ほど先生と相対していると心持ちが悠揚《ゆうよう》になる。女の一人や二人どうなってもかまわないと思う。実をいうと、三四郎が今夜出かけてきたのは七|分方《ぶがた》この意味である。
 訪問理由の第三はだいぶ矛盾《むじゅん》している。自分は美禰子に苦しんでいる。美禰子のそばに野々宮さんを置くとなお苦しんでくる。その野々宮さんにもっとも近いものはこの先生である。だから先生の所へ来ると、野々宮さんと美禰子との関係がおのずから明瞭になってくるだろうと思う。これが明瞭になりさえすれば、自分の態度も判然きめることができる。そのくせ二人の事をいまだかつて先生に聞いたことがない。今夜は一つ聞いてみようかしらと、心を動かした。
「野々宮さんは下宿なすったそうですね」
「ええ、下宿したそうです」
「家をもった者が、また下宿をしたら不便だろうと思いますが、野々宮さんはよく……」
「ええ、そんな事にはいっこう無頓着《むとんじゃく》なほうでね。あの服装を見てもわかる。家庭的な人じゃない。その代り学問にかけると非常に神経質だ
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