H店へ上がれば牛肉屋である。その牛肉屋の牛《ぎゅう》が馬肉かもしれないという嫌疑《けんぎ》がある。学生は皿に盛った肉を手づかみにして、座敷の壁へたたきつける。落ちれば牛肉で、ひっつけば馬肉だという。まるで呪《まじない》みたような事をしていた。その三四郎にとって、こういう紳士的な学生|親睦会《しんぼくかい》は珍しい。喜んでナイフとフォークを動かしていた。そのあいだにはビールをさかんに飲んだ。
「学生集会所の料理はまずいですね」と三四郎に隣にすわった男が話しかけた。この男は頭を坊主に刈って、金縁の眼鏡《めがね》をかけたおとなしい学生であった。
「そうですな」と三四郎は生《なま》返事をした。相手が与次郎なら、ぼくのようないなか者には非常にうまいと正直なところをいうはずであったが、その正直がかえって皮肉に聞こえると悪いと思ってやめにした。するとその男が、
「君はどこの高等学校ですか」と聞きだした。
「熊本です」
「熊本ですか。熊本にはぼくの従弟《いとこ》もいたが、ずいぶんひどい所だそうですね」
「野蛮な所です」
 二人が話していると、向こうの方で、急に高い声がしだした。見ると与次郎が隣席の二、
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