》がある。五郎も十郎も頼朝《よりとも》もみな平等に菊の着物を着ている。ただし顔や手足はことごとく木彫りである。その次は雪が降っている。若い女が癪《しゃく》を起こしている。これも人形の心《しん》に、菊をいちめんにはわせて、花と葉が平に隙間《すきま》なく衣装の恰好《かっこう》となるように作ったものである。
 よし子は余念なくながめている。広田先生と野々宮はしきりに話を始めた。菊の培養法が違うとかなんとかいうところで、三四郎は、ほかの見物に隔てられて、一間ばかり離れた。美禰子はもう三四郎より先にいる。見物は、がいして町家《ちょうか》の者である。教育のありそうな者はきわめて少ない。美禰子はその間に立って振り返った。首を延ばして、野々宮のいる方を見た。野々宮は右の手を竹の手欄《てすり》から出して、菊の根をさしながら、何か熱心に説明している。美禰子はまた向こうをむいた。見物に押されて、さっさと出口の方へ行く。三四郎は群集《ぐんしゅう》を押し分けながら、三人を棄てて、美禰子のあとを追って行った。
 ようやくのことで、美禰子のそばまで来て、
「里見さん」と呼んだ時に、美禰子は青竹《あおだけ》の手欄《て
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