に感服して見ている、何を感服しているのか分らない、おおかた流汗淋漓《りゅうかんりんり》大童《おおわらわ》となって自転車と奮闘しつつある健気《けなげ》な様子に見とれているのだろう、天涯《てんがい》この好知己《こうちき》を得る以上は向脛《むこうずね》の二三カ所を擦《す》りむいたって惜しくはないという気になる、「もう一遍頼むよ、もっと強く押してくれたまえ、なにまた落ちる? 落ちたって僕の身体《からだ》だよ」と降参人たる資格を忘れてしきりに汗気※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]《かんきえん》を吹いている、すると出し抜に後ろから Sir ! と呼んだものがある、はてな滅多《めった》な異人に近づきはないはずだがとふり返ると、ちょっと人を狼狽《ろうばい》せしむるに足る的の大巡査がヌーッと立っている、こちらはこんな人に近づきではないが先方ではこのポット出のチンチクリンの田舎者《いなかもの》に近づかざるべからざる理由があってまさに近づいたものと見える、その理由に曰《いわ》くここは馬を乗る所で自転車に乗る所ではないから自転車を稽古《けいこ》するなら往来へ出てやらしゃい、オーライ謹んで命を領
前へ
次へ
全20ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング