は晴れなかった。往来を行く人は傘をさしたり畳んだりした。見附外《みつけそと》の柳は煙のように長い枝を垂れていた。その下を通ると、青白い粉《こ》か黴《かび》が着物にくっついていつまでも落ちないように感ぜられた。
 雅楽所の門内には俥《くるま》がたくさん並んでいた。馬車も一二台いた。しかし自動車は一つも見えなかった。自分は玄関先で帽子を人に渡した。その人は金の釦鈕《ボタン》のついた制服のようなものを着ていた。もう一人の人が自分を観覧席へ連れて行ってくれた。
「そこいらへおかけなすって」
 彼はそう云ってまた玄関の方へ帰って行った。椅子はまだ疎《まば》らに占領されているだけであった。自分はなるべく人の眼に着かないように後列の一脚に腰を下《おろ》した。

        十八

 自分は心のうちで三沢を予期しながら四方を見渡したが彼の姿はどこにも見えなかった。もっとも見所《けんじょ》は正面のほか左右|両側面《りょうそくめん》にもあった。自分は玄関から左へ突き当って右へ折れて金屏風《きんびょうぶ》の立ててある前を通って正面席に案内されたのである。自分の前には紋付《もんつき》の女が二三人いた。後《
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