」
言葉寡《ことばずくな》な彼女はただ簡単にこう答えただけであったが、その後へ、「御無沙汰って云えば、あなた番町へもずいぶん御無沙汰ね」と付け加えて、ことさらに自分の顔を見た。
自分は全く番町へは遠ざかっていた。始めは宅《うち》の事が苦《く》になって一週に一度か二度行かないと気が済まないくらいだったが、いつか中心を離れてよそからそっと眺める癖を養い出した。そうしてその眺めている間少くとも事が起らずに済んだという自覚が、無沙汰を無事の原因のように思わせていた。
「なぜ元のようにちょくちょくいらっしゃらないの」
「少し仕事の方が忙《いそが》しいもんですから」
「そう? 本当に? そうじゃないでしょう」
自分は嫂からこう追窮されるのに堪《た》えなかった。その上自分には彼女の心理が解らなかった。他《ほか》の人はどうあろうとも、嫂だけはこの点において自分を追窮する勇気のないものと今まで固く信じていたからである。自分は思い切って「あなたは大胆過ぎる」と云おうかと思った。けれども疾《とう》に相手から小胆と見縊《みくび》られている自分はついに卑怯《ひきょう》であった。
「本当に忙がしいのです。実
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