けっして自分の室の裡《うち》に見出されなかった。
 父も来なかった。
 三沢は時々来た。自分はある機会を利用して、それとなく彼にお重を貰う意があるかないかを探って見た。
「そうだね。あのお嬢さんももう年頃だから、そろそろどこかへ片づける必要が逼《せま》って来るだろうね。早く好い所を見つけて嬉《うれ》しがらせてやりたまえ」
 彼はただこう云っただけで、取り合う気色《けしき》もなかった。自分はそれぎり断念してしまった。
 永いようで短い冬は、事の起りそうで事の起らない自分の前に、時雨《しぐれ》、霜解《しもどけ》、空《から》っ風《かぜ》……と既定の日程を平凡に繰り返して、かように去ったのである。


     塵労


        一

 陰刻《いんこく》な冬が彼岸《ひがん》の風に吹き払われた時自分は寒い窖《あなぐら》から顔を出した人のように明るい世界を眺めた。自分の心のどこかにはこの明るい世界もまた今やり過ごした冬と同様に平凡だという感じがあった。けれども呼息《いき》をするたびに春の匂《におい》が脈《みゃく》の中に流れ込む快よさを忘れるほど自分は老いていなかった。
 自分は天気の好い折
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