つつ、十三世紀だか十四世紀だか解らない遠い昔の以太利《イタリー》の物語をした。自分はその間やっとの事で、不愉快の念を抑えていた。ところが物語が一応済むと、彼は急に思いも寄らない質問を自分に掛けた。
「二郎、なぜ肝心《かんじん》な夫の名を世間が忘れてパオロとフランチェスカだけ覚えているのか。その訳を知ってるか」
 自分は仕方がないから「やっぱり三勝半七《さんかつはんしち》見たようなものでしょう」と答えた。兄は意外な返事にちょっと驚いたようであったが、「おれはこう解釈する」としまいに云い出した。
「おれはこう解釈する。人間の作った夫婦という関係よりも、自然が醸《かも》した恋愛の方が、実際神聖だから、それで時を経《ふ》るに従がって、狭い社会の作った窮屈な道徳を脱ぎ棄《す》てて、大きな自然の法則を嘆美する声だけが、我々の耳を刺戟《しげき》するように残るのではなかろうか。もっともその当時はみんな道徳に加勢する。二人のような関係を不義だと云って咎《とが》める。しかしそれはその事情の起った瞬間を治めるための道義に駆《か》られた云わば通り雨のようなもので、あとへ残るのはどうしても青天と白日、すなわちパ
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