分は時々こう考えて、早く家《うち》を出てしまおうと決心した事もあった。あまり食卓の空気が冷やかな折は、お重が自分の後を恋《した》って、追いかけるように、自分の室へ這入《はい》って来た。彼女は何にも云わずにそこで泣き出したりした。ある時はなぜ兄さんに早く詫《あや》まらないのだと詰問するように自分を悪《にく》らしそうに睨《にら》めたりした。
自分は宅《うち》にいるのがいよいよ厭《いや》になった。元来|性急《せっかち》のくせに決断に乏しい自分だけれども、今度こそは下宿なり間借りなりして、当分気を抜こうと思い定《さだ》めた。自分は三沢の所へ相談に行った。その時自分は彼に、「君が大阪などで、ああ長く煩《わずら》うから悪いんだ」と云った。彼は「君がお直《なお》さんなどの傍《そば》に長くくっついているから悪いんだ」と答えた。
自分は上方《かみがた》から帰って以来、彼に会う機会は何度となくあったが、嫂《あによめ》については、いまだかつて一言も彼に告げた例《ためし》がなかった。彼もまた自分の嫂に関しては、いっさい口を閉じて何事をも云わなかった。
自分は始めて彼の咽喉《のど》を洩《も》れる嫂の名を聞
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