言葉を聞いた時、平生と違って、顔の筋肉をほとんど一つも動かさなかった。ただ洋卓《テーブル》の前に肱《ひじ》を突いたなり、じっとしていた。眼さえ伏せていたから、自分には彼の表情がちっとも解らなかった。兄は理に明らかなようで、またその理にころりと抛《な》げられる癖があった。自分はただ彼の顔色が少し蒼《あお》くなったのを見て、これは必竟《ひっきょう》彼が自分の強い言語に叩《たた》かれたのだと判断した。
 自分はそこにあった巻莨入《まきたばこいれ》から煙草《たばこ》を一本取り出して燐寸《マッチ》の火を擦《す》った。そうして自分の鼻から出る青い煙と兄の顔とを等分に眺めていた。
「二郎」と兄がようやく云った。その声には力も張《はり》もなかった。
「何です」と自分は答えた。自分の声はむしろ驕《おご》っていた。
「もうおれはお前に直《なお》の事について何も聞かないよ」
「そうですか。その方が兄さんのためにも嫂さんのためにも、また御父さんのためにも好いでしょう。善良な夫になって御上げなさい。そうすれば嫂さんだって善良な夫人でさあ」と自分は嫂《あによめ》を弁護するように、また兄を戒めるように云った。
「こ
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