に手に握れない方が遥《はる》かに苦痛なのであった。
「御父さんはどういう返事をしておやりでしたか」とその時兄が突然聞いた。その顔には普通の興味というよりも、異状の同情が籠《こも》っているらしかった。
「おれも仕方がないから、そりゃ大丈夫、僕が受け合う。本人に軽薄なところはちっともないと答えた」と父は好い加減な答えをかえって自慢らしく兄に話した。

        十九

「女はそんな事で満足したんですか」と兄が聞いた。自分から見ると、兄のこの問には冒《おか》すべからざる強味が籠《こも》っていた。それが一種の念力《ねんりき》のように自分には響いた。
 父は気がついたのか、気がつかなかったのか、平気でこんな答をした。
「始《はじめ》は満足しかねた様子だった。もちろんこっちの云う事がそらそれほど根のある訳でもないんだからね。本当を云えば、先刻《さっき》お前達に話した通り男の方はまるで坊ちゃんなんで、前後の分別も何もないんだから、真面目《まじめ》な挨拶《あいさつ》はとてもできないのさ。けれどもそいつがいったん女と関係した後で止せば好かったと後悔したのは、どうも事実に違なかろうよ」
 兄は苦々し
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