たでしょうが、○○は最初から気がついていたのです。しかし細君や娘の手前、口を利《き》く事もでき悪《にく》かったんでしょう。それなり宅《うち》へ帰ったと云っていました」
父はその時始めて盲目《めくら》の涙腺《るいせん》から流れ出る涙を見た。
「失礼ながら眼を御煩《おわずら》いになったのはよほど以前の事なんですか」と聞いた。
「こういう不自由な身体《からだ》になってから、もう六年ほどにもなりましょうか。夫が亡《な》くなって一年|経《た》つか経たないうちの事でございます。生《うま》れつきの盲目と違って、当座は大変不自由を致しました」
父は慰めようもなかった。彼女のいわゆる夫というのは何でも、請負師《うけおいし》か何かで、存生中《ぞんしょうちゅう》にだいぶ金を使った代りに、相応の資産も残して行ったらしかった。彼女はその御蔭《おかげ》で眼を煩った今日《こんにち》でも、立派に独立して暮して行けるのだろうと父は説明した。
彼女は人に誇ってしかるべき倅《せがれ》と娘を持っていた。その倅には高等の教育こそ施してないようだったけれども、何でも銀座辺のある商会へ這入《はい》って独立し得るだけの収入を得
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