うので、聞いている客を始め我々三人もただ笑うだけ笑えばそれで後《あと》には何も残らないような気がした。その上客は笑う術をどこかで練修《れんしゅう》して来たように旨《うま》く笑った。一座のうちで比較的真面目だったのはただ兄一人であった。
「とにかくその結果はどうなりました。めでたく結婚したんですか」と冗談とも思われない調子で聞いていた。
「いやそこをこれから話そうというのだ。先刻《さっき》も云った通り『景清』の趣《おもむき》の出てくるところはこれからさ。今言ってるところはほんの冒頭《まえおき》だて」と父は得意らしく答えた。

        十四

 父の話すところによると、その男とその女の関係は、夏の夜の夢のようにはかないものであった。しかし契《ちぎ》りを結んだ時、男は女を未来の細君にすると言明したそうである。もっともこれは女から申し出した条件でも何でもなかったので、ただ男の口から勢いに駆《か》られて、おのずと迸《ほとば》しった、誠ではあるが実行しにくい感情的の言葉に過ぎなかったと父はわざわざ説明した。
「と云うのはね、両方共おない年でしょう。しかも一方は親の脛《すね》を噛《かじ》って
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