んと》ない機会を逃すのはつまり両損になるという母の意見が実際上にもっともなので、理に明るい兄はすぐ折れてしまった。兄の見地《けんち》に多少譲歩している父も無事に納得した。
けれども黙っていたお重には、それがはなはだしい不愉快を与えたらしかった。しかし彼女が今度の結婚問題について万事快くお貞さんの相談に乗るのを見ても、彼女が機先を制せられたお貞さんに悪感情を抱いていないのはたしかな事実であった。
彼女はただ嫂の傍《そば》にいるのが厭《いや》らしく見えた。いくら父母のいる家であっても、いくら思い通りの子供らしさを精一杯に振り舞わす事ができても、この冷かな嫂からふんという顔つきで眺められるのが何より辛《つら》かったらしい。
こういう気分に神経を焦《いら》つかせている時、彼女はふと女の雑誌か何かを借りるために嫂の室《へや》へ這入《はい》った。そうしてそこで嫂がお貞さんのために縫っていた嫁入仕度《よめいりじたく》の着物を見た。
「お重さんこれお貞さんのよ。好いでしょう。あなたも早く佐野さんみたような方の所へいらっしゃいよ」と嫂は縫っていた着物を裏表|引繰返《ひっくりかえ》して見せた。その態
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