きのう》一昨日《おととい》などはことにそうであった。ところがこうして佐野が一人新しく席に加わって見ると、友達の手前体裁が悪いという訳だか何だか、自分に対する口の利《き》き方が急に対等になった。ある時は対等以上に横風《おうふう》になった。
 四人のいる座敷の向《むこう》には、同じ家のだけれども棟《むね》の違う高い二階が見えた。障子《しょうじ》を取り払ったその広間の中を見上げると、角帯《かくおび》を締《し》めた若い人達が大勢《おおぜい》いて、そのうちの一人が手拭《てぬぐい》を肩へかけて踊《おどり》かなにか躍《おど》っていた。「御店《おたな》ものの懇親会というところだろう」と評し合っているうちに、十六七の小僧が手摺《てすり》の所へ出て来て、汚ないものを容赦《ようしゃ》なく廂《ひさし》の上へ吐《は》いた。すると同じくらいな年輩の小僧がまた一人|煙草《たばこ》を吹かしながら出て来て、こらしっかりしろ、おれがついているから、何にも怖《こわ》がるには及ばない、という意味を純粋の大阪弁でやり出した。今まで苦々《にがにが》しい顔をして手摺の方を見ていた四人はとうとう吹き出してしまった。
「どっちも酔って
前へ 次へ
全520ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング