。針鼠《はりねずみ》のように尖《とが》ってるあの兄を、わずかの間に丸め込んだ嫂の手腕にはなおさら敬服した。自分はようやく安心したような顔を、晴々と輝かせた母を見るだけでも満足であった。
 兄の機嫌《きげん》は和歌の浦を立つ時も変らなかった。汽車の内でも同じ事であった。大阪へ来てもなお続いていた。彼は見送りに出た岡田夫婦を捕《つら》まえて戯談《じょうだん》さえ云った。
「岡田君お重《しげ》に何か言伝《ことづて》はないかね」
 岡田は要領を得ない顔をして、「お重さんにだけですか」と聞き返していた。
「そうさ君の仇敵《きゅうてき》のお重にさ」
 兄がこう答えた時、岡田はやっと気のついたという風に笑い出した。同じ意味で謎《なぞ》の解けたお兼《かね》さんも笑い出した。母の予言通り見送りに来ていた佐野も、ようやく笑う機会が来たように、憚《はばか》りなく口を開いて周囲の人を驚かした。
 自分はその時まで嫂《あによめ》にどうして兄の機嫌《きげん》を直したかを聞いて見なかった。その後もついぞ聞く機会をもたなかった。けれどもこういう霊妙な手腕をもっている彼女であればこそ、あの兄に対して始終《しじゅう》ああ
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