に照らされる無気味さよりはかえって心持が好いくらいだった。自分は燐寸《マッチ》を擦《す》って、薄暗い所で煙草《たばこ》を呑《の》み始めた。

        三十七

 自分は先刻《さっき》から少しも寝なかった。小用《こよう》に立って、一本の紙巻を吹かす間にもいろいろな事を考えた。それが取りとめもなく雑然と一度に来るので、自分にも何が主要の問題だか捕えられなかった。自分は燐寸を擦って煙草を呑んでいる事さえ時々忘れた。しかもそこに気がついて、再び吸口を唇《くちびる》に銜《くわ》える時の煙の無味《まず》さはまた特別であった。
 自分の頭の中には、今見て来た正体《しょうたい》の解らない黒い空が、凄《すさ》まじく一様に動いていた。それから母や兄のいる三階の宿が波を幾度となく被《かぶ》って、くるりくるりと廻り出していた。それが片づかないうちに、この部屋の中に寝ている嫂の事がまた気になり出した。天災とは云え二人でここへ泊った言訳をどうしたものだろうと考えた。弁解してから後《あと》、兄の機嫌《きげん》をどうして取り直したものだろうとも考えた。同時に今日嫂といっしょに出て、滅多《めった》にないこんな冒
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