もいいようでまたどっちも悪いようであった。自分は吸物|椀《わん》を手にしたままぼんやり庭の方を眺めていた。
「何を考えていらっしゃるの」と嫂が聞いた。
「何、降りゃしまいかと思ってね」と自分はいい加減な答をした。
「そう。そんなに御天気が怖《こわ》いの。あなたにも似合わないのね」
「怖かないけど、もし強雨《ごうう》にでもなっちゃ大変ですからね」
自分がこう云っている内に、雨はぽつりぽつりと落ちて来た。よほど早くからの宴会でもあるのか、向うに見える二階の広間に、二三人|紋付《もんつき》羽織《はおり》の人影が見えた。その見当で芸者が三味線の調子を合わせている音が聞え出した。
宿を出るときすでにざわついていた自分の心は、この時一層落ちつきを失いかけて来た。自分は腹の中で、今日はとてもしんみりした話をする気になれないと恐れた。なぜまたその今日に限って、こんな変な事を引受けたのだろうと後悔もした。
三十
嫂はそんな事に気のつくはずがなかった。自分が雨を気にするのを見て、彼女はかえって不思議そうに詰《なじ》った。
「何でそんなに雨が気になるの。降れば後が涼しくなって好いじ
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