あなたにあれば、妾《あたし》にだってあるわ」
自分は立って着物を着換え始めた。
嫂《あによめ》は上着を引掛けてくれながら、「あなた何だか今日は勇気がないようね」と調戯《からか》い半分に云った。自分は全く勇気がなかった。
二人は電車の出る所まで歩いて行った。あいにく近路《ちかみち》を取ったので、嫂の薄い下駄《げた》と白足袋《しろたび》が一足《ひとあし》ごとに砂の中に潜《もぐ》った。
「歩き悪《にく》いでしょう」
「ええ」と云って彼女《かのじょ》は傘《かさ》を手に持ったまま、後《うしろ》を向いて自分の後足《あとあし》を顧みた。自分は赤い靴を砂の中に埋《うず》めながら、今日の使命をどこでどう果したものだろうと考えた。考えながら歩くせいか会話は少しも機《はず》まない心持がした。
「あなた今日は珍らしく黙っていらっしゃるのね」とついに嫂から注意された。
二十八
自分は嫂と並んで電車に腰を掛けた。けれども大事の用を前に控えているという気が胸にあるので、どうしても機嫌《きげん》よく話はできなかった。
「なぜそんなに黙っていらっしゃるの」と彼女が聞いた。自分は宿を出てからこ
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