そこにあった石に腰をおろした。その石の後は篠竹《しのだけ》が一面に生えて遥《はるか》の下まで石垣の縁《ふち》を隠すように茂っていた。その中から大きな椿《つばき》が所々に白茶けた幹を現すのがことに目立って見えた。
「なるほどここは静《しずか》だ。ここならゆっくり話ができそうだ」と兄は四方《あたり》を見廻した。

        十八

「二郎少し御前に話があるがね」と兄が云った。
「何です」
 兄はしばらく逡巡《しゅんじゅん》して口を開かなかった。自分はまたそれを聞くのが厭《いや》さに、催促もしなかった。
「ここは涼しいですね」と云った。
「ああ涼しい」と兄も答えた。
 実際そこは日影に遠いせいか涼しい風の通う高みであった。自分は三四分手帛を動かした後《のち》、急に肌を入れた。山門の裏には物寂《ものさ》びた小さい拝殿があった。よほど古い建物と見えて、軒に彫つけた獅子の頭などは絵の具が半分|剥《は》げかかっていた。
 自分は立って山門を潜《くぐ》って拝殿の方へ行った。
「兄さんこっちの方がまだ涼しい。こっちへいらっしゃい」
 兄は答えもしなかった。自分はそれを機《しお》に拝殿の前面を左右に
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