側へ出た。縁側には白いカヴァーのかかった椅子が二脚ほど出ていた。自分はその一脚を引き寄せて腰をかけた。
「あまりがたがた云わして、兄さんの邪魔になるといけないよ」
 母からこう注意された自分は、煙草《たばこ》を吹かしながら黙って、夢のような眼前《めのまえ》の景色を眺めていた。景色は夜と共に無論ぼんやりしていた。月のない晩なので、ことさら暗いものが蔓《はびこ》り過ぎた。そのうちに昼間見た土手の松並木だけが一際《ひときわ》黒ずんで左右に長い帯を引き渡していた。その下に浪《なみ》の砕けた白い泡が夜の中に絶間なく動揺するのが、比較的|刺戟強《しげきづよ》く見えた。
「もう好い加減に御這入《おはい》りよ。風邪《かぜ》でも引くといけないから」
 母は障子《しょうじ》の内からこう云って注意した。自分は椅子に倚《よ》りながら、母に夜の景色を見せようと思ってちょっと勧めたが、彼女は応じなかった。自分は素直にまた蚊帳の中に這入って、枕の上に頭を着けた。
 自分が蚊帳を出たり這入ったりした間、兄夫婦の室は森《しん》として元のごとく静かであった。自分が再び床に着いた後《あと》も依然として同じ沈黙に鎖《とざ》さ
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