薄くできているので、風が来て綺麗《きれい》なレースを弄《もてあそ》ぶ様《さま》が涼しそうに見えた。
「好い蚊帳ですね。宅《うち》でも一つこんなのを買おうじゃありませんか」と母に勧めた。
「こりゃ見てくれだけは綺麗だが、それほど高いものじゃないよ。かえって宅にあるあの白麻の方が上等なんだよ。ただこっちのほうが軽くって、継《つ》ぎ目《め》がないだけに華奢《きゃしゃ》に見えるのさ」
母は昔ものだけあって宅《うち》にある岩国《いわくに》かどこかでできる麻の蚊帳の方を賞《ほ》めていた。
「だいち寝冷《ねびえ》をしないだけでもあっちの方が得じゃないか」と云った。
下女が来て障子《しょうじ》を締め切ってから、蚊帳は少しも動かなくなった。
「急に暑苦しくなりましたね」と自分は嘆息するように云った。
「そうさね」と答えた母の言葉は、まるで暑さが苦にならないほど落ちついていた。それでも団扇遣《うちわづかい》の音だけは微《かす》かに聞こえた。
母はそれからふっつり口を利《き》かなくなった。自分も眼を眠《ねむ》った。襖《ふすま》一つ隔てた隣座敷には兄夫婦が寝ていた。これは先刻《さっき》から静《しずか》で
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