》さんにこの様子を見せて、ありがたいと思うか、余計な御世話だと思うか、本当のところを聞いて見たい気がした。同時に三沢が別れる時、新しく自分の頭に残して行った美しい精神病の「娘さん」の不幸な結婚を聯想《れんそう》した。
嫂《あによめ》とお兼さんは親しみの薄い間柄《あいだがら》であったけれども、若い女同志という縁故で先刻《さっき》から二人だけで話していた。しかし気心が知れないせいか、両方共遠慮がちでいっこう調子が合いそうになかった。嫂は無口な性質《たち》であった。お兼さんは愛嬌《あいきょう》のある方であった。お兼さんが十口《とくち》物をいう間に嫂は一口《ひとくち》しかしゃべれなかった。しかも種が切れると、その都度《つど》きっとお兼さんの方から供給されていた。最後に子供の話が出た。すると嫂の方が急に優勢になった。彼女はその小さい一人娘の平生を、さも興ありげに語った。お兼さんはまた嫂のくだくだしい叙述を、さも感心したように聞いていたが、実際はまるで無頓着《むとんじゃく》らしくも見えた。ただ一遍「よくまあお一人でお留守居《るすい》ができます事」と云ったのは誠らしかった。「お重さんによく馴《な》
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