うと思って、ちょっと嫂《あによめ》の室《へや》を覗《のぞ》いたら、嫂は芳江を前に置いて裸人形に美しい着物を着せてやっていた。
「芳江大変大きくなったね」
自分は芳江の頭へ立ちながら手をかけた。芳江はしばらく顔を見なかった叔父に突然|綾《あや》されたので、少しはにかんだように唇《くちびる》を曲げて笑っていた。門を出る時はかれこれ五時に近かったが、兄はまだ上野から帰らなかった。父は久しぶりだから飯《めし》でも食って彼に会って行けと云ったが、自分はとうとうそれまで腰を据《す》えていられなかった。
十三
翌日《あくるひ》自分は事務所の帰りがけに三沢を尋ねた。ちょうど髪を刈りに今しがた出かけたところだというので、自分は遠慮なく上り込んで彼を待つ事にした。
「この両三日《りょうさんにち》はめっきりお暖かになりました。もうそろそろ花も咲くでございましょう」
主人の帰る間座敷へ出た彼の母は、いつもの通り丁寧《ていねい》な言葉で自分に話し掛けた。
彼の室《へや》は例のごとく絵だのスケッチだので鼻を突きそうであった。中には額縁《がくぶち》も何《な》にもない裸のままを、ピンで壁の上へじかに貼《は》り付けたのもあった。
「何だか存じませんが、好《すき》だものでございますから、むやみと貼散らかしまして」と彼の母は弁解がましく云った。自分は横手の本棚《ほんだな》の上に、丸い壺《つぼ》と並べて置いてあった一枚の油絵に眼を着けた。
それには女の首が描《か》いてあった。その女は黒い大きな眼をもっていた。そうしてその黒い眼の柔《やわら》かに湿《うるお》ったぼんやりしさ加減が、夢のような匂《におい》を画幅全体に漂わしていた。自分はじっとそれを眺めていた。彼の母は苦笑して自分を顧みた。
「あれもこの間いたずらに描きましたので」
三沢は画《え》の上手な男であった。職業柄自分も画の具を使う道ぐらいは心得ていたが、芸術的の素質を饒《ゆた》かにもっている点において、自分はとうてい彼の敵ではなかった。自分はこの画を見ると共に可憐なオフィリヤを連想した。
「面白いです」と云った。
「写真を台にして描いたんだから気分がよく出ない、いっそ生きてるうちに描かして貰《もら》えば好かったなんて申しておりました。不幸な方で、二三年前に亡くなりました。せっかく御世話をして上げた御嫁入先も不縁でね、あ
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