のであったけれども、大きさから云うと、普通《なみ》の箱火鉢と同じ事なので二人向い合せに手を翳《かざ》すと、顔と顔との距離があまり近過ぎるくらいの位地にあった。嫂《あによめ》は席に着いた初から寒いといって、猫背《ねこぜ》の人のように、心持胸から上を前の方に屈《こご》めて坐っていた。彼女のこの姿勢のうちには女らしいという以外に何の非難も加えようがなかった。けれどもその結果として自分は勢い後《うしろ》へ反《そ》り返る気味で座を構えなければならなくなった。それですら自分は彼女の富士額《ふじびたい》をこれほど近くかつ長く見つめた事はなかった。自分は彼女の蒼白《あおじろ》い頬の色を※[#「(諂−言)+炎」、第3水準1−87−64]《ほのお》のごとく眩《まぶ》しく思った。
 自分はこういう比較的窮屈な態度の下《もと》に、彼女から突如として彼女と兄の関係が、自分が宅《うち》を出た後《あと》もただ好くない一方に進んで行くだけであるという厭《いや》な事実を聞かされた。彼女はこれまでこちらから問いかけなければ、けっして兄の事について口を開かない主義を取っていた。たといこちらから問いかけても「相変らずですわ」とか、「何心配するほどの事じゃなくってよ」とか答えてただ微笑するのが常であった。それをまるで逆《さか》さまにして、自分の最も心苦しく思っている問題の真相を、向うから積極的にこちらへ吐きかけたのだから、卑怯《ひきょう》な自分は不意に硫酸を浴《あび》せられたようにひりひりとした。
 しかしいったん緒《いとぐち》を見出した時、自分はできるだけ根掘り葉掘り聞こうとした。けれども言葉の浪費を忌《い》む彼女は、そうこちらの思い通りにはさせなかった。彼女の口にするところは重《おも》に彼ら夫婦間に横たわる気不味《きまず》さの閃電《せんでん》に過ぎなかった。そうして気不味さの近因についてはついに一言《ひとこと》も口にしなかった。それを聞くと、彼女はただ「なぜだか分らないのよ」というだけであった。実際彼女にはそれが分らないのかも知れなかった。また分っている癖にわざと話さないのかも知れなかった。
「どうせ妾《あたし》がこんな馬鹿に生れたんだから仕方がないわ。いくらどうしたってなるようになるよりほかに道はないんだから。そう思って諦《あき》らめていればそれまでよ」
 彼女は初めから運命なら畏《おそ》れないという
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