まである。
「帰《けえ》ったか。御苦労だった。まああっちへ行って休みねえ」
と云うが早いか初さんは消えてなくなった。後《あと》は二人になる。親方は窓の中から、自分は表に立ったまま、談話《はなし》をした。
「どうです」
「大概見て来ました」
「どこまで降りました」
「八番坑まで降りました」
「八番坑まで。そりゃ大変だ。随分ひどかったでしょう。それで……」
と心持首を前の方へ出した。
「それで――やっぱりいるつもりです」
「やっぱり」
と繰り返したなり、飯場頭はじっと自分の顔を見ていた。自分も黙って立っていた。二階からは依然として首が出ている。おまけに二つばかり殖《ふ》えた。この顔を見ると、厭《いや》で厭でたまらない。飯場へ帰ってから、この顔に取り巻かれる事を思い出すと、ぞっとする。それでもいる気である。どんな辛抱をしてもいる気である。しかし「やっぱりいるつもりです」と断然答えて置いて、二階の顔を不意に見上げた時には、さすがに情なかった。こんな奴といっしょに置いてくれと、手を合せて拝まなければ始末がつかないようになり下がったのかと思うと、身体《からだ》も魂も塩を懸《か》けた海鼠《なまこ》の
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