出すように足を伸ばした。すると腿《もも》の所まで摺《ず》り落ちて、草鞋《わらじ》の裏がようやく堅いものに乗った。自分は念のためこの堅いものをぴちゃぴちゃ足の裏で敲《たた》いて見た。大丈夫なら手を離してこの堅いものの上へ立とうと云う料簡《りょうけん》であった。
「何で足ばかり、ばたばたやってるんだ。大丈夫だから、うんと踏ん張って立ちねえな。意久地《いくじ》のねえ」
と、下から初さんの声がする。自分の胴から上は叱られると同時に、穴を抜けて真直に立った。
「まるで傘《からかさ》の化物《ばけもの》のようだよ」
と初さんが、自分の顔を見て云った。自分は傘の化物とは何の意味だか分らなかったから、別に笑う気にもならなかった。ただ
「そうですか」
と真面目に答えた。妙な事にこの返事が面白かったと見えて、初さんは、また大きな声を出して笑った。そうして、この時から態度が変って、前よりは幾分《いくぶん》か親切になった。偶然の事がどんな拍子《ひょうし》で他《ひと》の気に入らないとも限らない。かえって、気に入ってやろうと思って仕出《しで》かす芸術は大抵駄目なようだ。天巧《てんこう》を奪うような御世辞使はいまだか
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