のそ/\這ひ出して見ると非常に痛い。吾輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。
漸くの思ひで笹原を這ひ出すと向ふに大きな池がある。吾輩は池の前に坐つてどうしたらよからうと考へて見た。別に是といふ分別も出ない。暫くして泣いたら書生が又迎に來てくれるかと考へ付いた。ニャー、ニャーと試みにやつて見たが誰も來ない。其内池の上をさら/\と風が渡つて日が暮れかゝる。腹が非常に減つて來た。泣き度ても聲が出ない。仕方がない、何でもよいから食物のある所迄あるかうと决心をしてそろりそろりと池を左りに廻り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりに這つて行くと漸くの事で何となく人間臭ひ所へ出た。此所へ這入つたら、どうにかなると思つて竹垣の崩れた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もし此竹垣が破れて居なかつたなら、吾輩は遂に路傍に餓死したかも知れんのである。一樹の蔭とはよく云つたものだ。此垣根の穴は今日に至る迄吾輩が隣家の三毛を訪問する時の通路になつて居る。偖邸へは忍び込んだものの是から先どうして善いか分らない。其内に暗くなる、腹は減る、寒さは寒し、雨が降て來るといふ始末で
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