ワでも文芸家の気でいる。「うまく癪が起りましたか」と主人は警句を吐く。「癪だけは第一回には、ちと無理でした」と東風子も警句を吐く。「ところで君は何の役割でした」と主人が聞く。「私《わたく》しは船頭」「へー、君が船頭」君にして船頭が務《つと》まるものなら僕にも見番くらいはやれると云ったような語気を洩《も》らす。やがて「船頭は無理でしたか」と御世辞のないところを打ち明ける。東風子は別段癪に障った様子もない。やはり沈着な口調で「その船頭でせっかくの催しも竜頭蛇尾《りゅうとうだび》に終りました。実は会場の隣りに女学生が四五人下宿していましてね、それがどうして聞いたものか、その日は朗読会があるという事を、どこかで探知して会場の窓下へ来て傍聴していたものと見えます。私《わたく》しが船頭の仮色《こわいろ》を使って、ようやく調子づいてこれなら大丈夫と思って得意にやっていると、……つまり身振りがあまり過ぎたのでしょう、今まで耐《こ》らえていた女学生が一度にわっと笑いだしたものですから、驚ろいた事も驚ろいたし、極《きま》りが悪《わ》るい事も悪るいし、それで腰を折られてから、どうしても後《あと》がつづけられ
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