えたる長範が二つになってぞ失《う》せにけりと云うが、あんな烏金《からすがね》で身代《しんだい》をつくった向横丁《むこうよこちょう》の長範なんかは業《ごう》つく張りの、慾張り屋だから、いくつになっても失せる気遣《きづかい》はないぜ。あんな奴につかまったら因果だよ。生涯《しょうがい》たたるよ、寒月君用心したまえ」
「なあに、いいですよ。ああら物々し盗人《ぬすびと》よ。手並はさきにも知りつらん。それにも懲《こ》りず打ち入るかって、ひどい目に合せてやりまさあ」と寒月君は自若として宝生流《ほうしょうりゅう》に気※[#「諂のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《きえん》を吐《は》いて見せる。
「探偵と云えば二十世紀の人間はたいてい探偵のようになる傾向があるが、どう云う訳だろう」と独仙君は独仙君だけに時局問題には関係のない超然たる質問を呈出した。
「物価が高いせいでしょう」と寒月君が答える。
「芸術趣味を解しないからでしょう」と東風君が答える。
「人間に文明の角《つの》が生えて、金米糖《こんぺいとう》のようにいらいらするからさ」と迷亭君が答える。
 今度は主人の番である。主人はもったい振《ぶ》った
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