べるが、こいつは何だか先が欠けてるじゃないか」
「それだから早く持って来ないと心配だと云うのです」
「なぜ?」
「なぜって、そりゃ鼠《ねずみ》が食ったのです」
「そいつは危険だ。滅多《めった》に食うとペストになるぜ」
「なに大丈夫、そのくらいかじったって害はありません」
「全体どこで噛《かじ》ったんだい」
「船の中でです」
「船の中? どうして」
「入れる所がなかったから、ヴァイオリンといっしょに袋のなかへ入れて、船へ乗ったら、その晩にやられました。鰹節《かつぶし》だけなら、いいのですけれども、大切なヴァイオリンの胴を鰹節と間違えてやはり少々|噛《かじ》りました」
「そそっかしい鼠だね。船の中に住んでると、そう見境《みさかい》がなくなるものかな」と主人は誰にも分らん事を云って依然として鰹節を眺《なが》めている。
「なに鼠だから、どこに住んでてもそそっかしいのでしょう。だから下宿へ持って来てもまたやられそうでね。剣呑《けんのん》だから夜《よ》るは寝床の中へ入れて寝ました」
「少しきたないようだぜ」
「だから食べる時にはちょっとお洗いなさい」
「ちょっとくらいじゃ奇麗にゃなりそうもない」
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