て、どうしたんだ」
「だって苛いわ」
「愚《ぐ》だな、同じ事ばかり繰り返している」
「叔父さんだって同じ事ばかり繰り返しているじゃありませんか」
「御前が繰り返すから仕方がないさ。現にいらないと云ったじゃないか」
「そりゃ云いましたわ。いらない事はいらないんですけれども、還すのは厭《いや》ですもの」
「驚ろいたな。没分暁《わからずや》で強情なんだから仕方がない。御前の学校じゃ論理学を教えないのか」
「よくってよ、どうせ無教育なんですから、何とでもおっしゃい。人のものを還せだなんて、他人だってそんな不人情な事は云やしない。ちっと馬鹿竹《ばかたけ》の真似でもなさい」
「何の真似をしろ?」
「ちと正直に淡泊《たんぱく》になさいと云うんです」
「お前は愚物の癖にやに強情だよ。それだから落第するんだ」
「落第したって叔父さんに学資は出して貰やしないわ」
 雪江さんは言《げん》ここに至って感に堪《た》えざるもののごとく、潸然《さんぜん》として一掬《いっきく》の涙《なんだ》を紫の袴《はかま》の上に落した。主人は茫乎《ぼうこ》として、その涙がいかなる心理作用に起因するかを研究するもののごとく、袴の上と
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