も跳《は》ね付けられて相手にしてくれ手がなかった。いかに珍重されなかったかは、今日《こんにち》に至るまで名前さえつけてくれないのでも分る。吾輩は仕方がないから、出来得る限り吾輩を入れてくれた主人の傍《そば》にいる事をつとめた。朝主人が新聞を読むときは必ず彼の膝《ひざ》の上に乗る。彼が昼寝をするときは必ずその背中《せなか》に乗る。これはあながち主人が好きという訳ではないが別に構い手がなかったからやむを得んのである。その後いろいろ経験の上、朝は飯櫃《めしびつ》の上、夜は炬燵《こたつ》の上、天気のよい昼は椽側《えんがわ》へ寝る事とした。しかし一番心持の好いのは夜《よ》に入《い》ってここのうちの小供の寝床へもぐり込んでいっしょにねる事である。この小供というのは五つと三つで夜になると二人が一つ床へ入《はい》って一間《ひとま》へ寝る。吾輩はいつでも彼等の中間に己《おの》れを容《い》るべき余地を見出《みいだ》してどうにか、こうにか割り込むのであるが、運悪く小供の一人が眼を醒《さ》ますが最後大変な事になる。小供は――ことに小さい方が質《たち》がわるい――猫が来た猫が来たといって夜中でも何でも大きな声で
前へ
次へ
全750ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング