はなお気に食わん。ここにおいてか主人は今まで頭から被《かぶ》っていた夜着を一度に跳《は》ねのけた。見ると大きな眼を二つとも開《あ》いている。
「何だ騒々しい。起きると云えば起きるのだ」
「起きるとおっしゃってもお起きなさらんじゃありませんか」
「誰がいつ、そんな嘘《うそ》をついた」
「いつでもですわ」
「馬鹿を云え」
「どっちが馬鹿だか分りゃしない」と妻君ぷんとして箒を突いて枕元に立っているところは勇ましかった。この時裏の車屋の子供、八っちゃんが急に大きな声をしてワーと泣き出す。八っちゃんは主人が怒《おこ》り出しさえすれば必ず泣き出すべく、車屋のかみさんから命ぜられるのである。かみさんは主人が怒るたんびに八っちゃんを泣かして小遣《こづかい》になるかも知れんが、八っちゃんこそいい迷惑だ。こんな御袋《おふくろ》を持ったが最後朝から晩まで泣き通しに泣いていなくてはならない。少しはこの辺の事情を察して主人も少々怒るのを差し控《ひか》えてやったら、八っちゃんの寿命が少しは延びるだろうに、いくら金田君から頼まれたって、こんな愚《ぐ》な事をするのは、天道公平君よりもはげしくおいでになっている方だと鑑
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