ケた。愚人は得てこんなところに意地を張るものだ。
迷亭君は「まあ面白かろう、見て来たまえ」と云ったのみである。一波瀾《ひとはらん》を生じた刑事事件はこれで一先《ひとま》ず落着《らくちゃく》を告げた。迷亭はそれから相変らず駄弁を弄《ろう》して日暮れ方、あまり遅くなると伯父に怒《おこ》られると云って帰って行った。
迷亭が帰ってから、そこそこに晩飯をすまして、また書斎へ引き揚げた主人は再び拱手《きょうしゅ》して下《しも》のように考え始めた。
「自分が感服して、大《おおい》に見習おうとした八木独仙君も迷亭の話しによって見ると、別段見習うにも及ばない人間のようである。のみならず彼の唱道するところの説は何だか非常識で、迷亭の云う通り多少|瘋癲的《ふうてんてき》系統に属してもおりそうだ。いわんや彼は歴乎《れっき》とした二人の気狂《きちがい》の子分を有している。はなはだ危険である。滅多《めった》に近寄ると同系統内に引《ひ》き摺《ず》り込まれそうである。自分が文章の上において驚嘆の余《よ》、これこそ大見識を有している偉人に相違ないと思い込んだ天道公平事《てんどうこうへいこと》実名《じつみょう》立町老
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