ニ云う。あれは目見ず[#「目見ず」に傍点]の名目よみで。蝦蟆《がま》の事をかいる[#「かいる」に傍点]と云うのと同じ事さ」
「へえ、驚ろいたな」
「蝦蟆を打ち殺すと仰向《あおむ》きにかえる[#「かえる」に傍点]。それを名目読みにかいる[#「かいる」に傍点]と云う。透垣《すきがき》をすい[#「すい」に傍点]垣《がき》、茎立《くきたち》をくく[#「くく」に傍点]立、皆同じ事だ。杉原《すいはら》をすぎ原などと云うのは田舎《いなか》ものの言葉さ。少し気を付けないと人に笑われる」
「じゃ、その、すい[#「すい」に傍点]原へこれから行くんですか。困ったな」
「なに厭《いや》なら御前は行かんでもいい。わし一人で行くから」
「一人で行けますかい」
「あるいてはむずかしい。車を雇って頂いて、ここから乗って行こう」
主人は畏《かしこ》まって直ちに御三《おさん》を車屋へ走らせる。老人は長々と挨拶をしてチョン髷頭《まげあたま》へ山高帽をいただいて帰って行く。迷亭はあとへ残る。
「あれが君の伯父さんか」
「あれが僕の伯父さんさ」
「なるほど」と再び座蒲団《ざぶとん》の上に坐ったなり懐手《ふところで》をして考え
前へ
次へ
全750ページ中541ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング