飯と云やあ、僕はまだ御飯をいただかないんですがね」と平気な顔をして聞きもせぬ事を吹聴《ふいちょう》する。「おやまあ、時分どきだのにちっとも気が付きませんで――それじゃ何もございませんが御茶漬でも」「いえ御茶漬なんか頂戴しなくっても好いですよ」「それでも、あなた、どうせ御口に合うようなものはございませんが」と細君少々厭味を並べる。迷亭は悟ったもので「いえ御茶漬でも御湯漬でも御免蒙るんです。今途中で御馳走を誂《あつ》らえて来ましたから、そいつを一つここでいただきますよ」ととうてい素人《しろうと》には出来そうもない事を述べる。細君はたった一言《ひとこと》「まあ!」と云ったがそのまあ[#「まあ」に傍点]の中《うち》には驚ろいたまあ[#「まあ」に傍点]と、気を悪るくしたまあ[#「まあ」に傍点]と、手数《てすう》が省けてありがたいと云うまあ[#「まあ」に傍点]が合併している。
ところへ主人が、いつになくあまりやかましいので、寝つき掛った眠をさかに扱《こ》かれたような心持で、ふらふらと書斎から出て来る。「相変らずやかましい男だ。せっかく好い心持に寝ようとしたところを」と欠伸交《あくびまじ》りに仏頂
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