ぶ》で門へ貼《は》り付けるのでしょう。雨がふると剥《は》がれてしまいましょう。すると御天気の日にまた貼り付けるのです。だから標札は当《あて》にゃなりませんよ。あんな面倒臭い事をするよりせめて木札《きふだ》でも懸けたらよさそうなもんですがねえ。ほんとうにどこまでも気の知れない人ですよ」
「どうも驚きますな。しかし崩れた黒塀のうちと聞いたら大概分るでしょう」
「ええあんな汚ないうちは町内に一軒しかないから、すぐ分りますよ。あ、そうそうそれで分らなければ、好い事がある。何でも屋根に草が生《は》えたうちを探して行けば間違っこありませんよ」
「よほど特色のある家《いえ》ですなアハハハハ」
鈴木君が御光来になる前に帰らないと、少し都合が悪い。談話もこれだけ聞けば大丈夫沢山である。椽《えん》の下を伝わって雪隠《せついん》を西へ廻って築山《つきやま》の陰から往来へ出て、急ぎ足で屋根に草の生えているうちへ帰って来て何喰わぬ顔をして座敷の椽へ廻る。
主人は椽側へ白毛布《しろげっと》を敷いて、腹這《はらばい》になって麗《うらら》かな春日《はるび》に甲羅《こうら》を干している。太陽の光線は存外公平なもので
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