美的価値を落す事だろうと思います。御母堂の鼻はシーザーのそれのごとく、正《まさ》しく英姿颯爽《えいしさっそう》たる隆起に相違ございません。しかしその周囲を囲繞《いにょう》する顔面的条件は如何《いかが》な者でありましょう。無論当家の猫のごとく劣等ではない。しかし癲癇病《てんかんや》みの御かめ[#「御かめ」に傍点]のごとく眉《まゆ》の根に八字を刻んで、細い眼を釣るし上げらるるのは事実であります。諸君、この顔にしてこの鼻ありと嘆ぜざるを得んではありませんか」迷亭の言葉が少し途切れる途端《とたん》、裏の方で「まだ鼻の話しをしているんだよ。何てえ剛突《ごうつ》く張《ばり》だろう」と云う声が聞える。「車屋の神さんだ」と主人が迷亭に教えてやる。迷亭はまたやり初める。「計らざる裏手にあたって、新たに異性の傍聴者のある事を発見したのは演者の深く名誉と思うところであります。ことに宛転《えんてん》たる嬌音《きょうおん》をもって、乾燥なる講筵《こうえん》に一点の艶味《えんみ》を添えられたのは実に望外の幸福であります。なるべく通俗的に引き直して佳人淑女《かじんしゅくじょ》の眷顧《けんこ》に背《そむ》かざらん事を
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