ソきしょう》って気で追っかけてとうとう泥溝《どぶ》の中へ追い込んだと思いねえ」「うまくやったね」と喝采《かっさい》してやる。「ところが御めえ[#u御めえ」に傍点]いざってえ段になると奴め最後《さいご》っ屁《ぺ》をこきゃがった。臭《くせ》えの臭くねえのってそれからってえものはいたち[#「いたち」に傍点]を見ると胸が悪くならあ」彼はここに至ってあたかも去年の臭気を今《いま》なお感ずるごとく前足を揚げて鼻の頭を二三遍なで廻わした。吾輩も少々気の毒な感じがする。ちっと景気を付けてやろうと思って「しかし鼠なら君に睨《にら》まれては百年目だろう。君はあまり鼠を捕《と》るのが名人で鼠ばかり食うものだからそんなに肥って色つやが善いのだろう」黒の御機嫌をとるためのこの質問は不思議にも反対の結果を呈出《ていしゅつ》した。彼は喟然《きぜん》として大息《たいそく》していう。「考《かん》げえるとつまらねえ。いくら稼いで鼠をとったって――一てえ人間ほどふてえ奴は世の中にいねえぜ。人のとった鼠をみんな取り上げやがって交番へ持って行きゃあがる。交番じゃ誰が捕《と》ったか分らねえからそのたんび[#「たんび」に傍点]に五
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