《はい》り込んだような心持ちがする。探険中は、ほかの事に気を奪われて部屋の装飾、襖《ふすま》、障子《しょうじ》の具合などには眼も留らなかったが、わが住居《すまい》の下等なるを感ずると同時に彼《か》のいわゆる月並《つきなみ》が恋しくなる。教師よりもやはり実業家がえらいように思われる。吾輩も少し変だと思って、例の尻尾《しっぽ》に伺いを立てて見たら、その通りその通りと尻尾の先から御託宣《ごたくせん》があった。座敷へ這入《はい》って見ると驚いたのは迷亭先生まだ帰らない、巻煙草《まきたばこ》の吸い殻を蜂の巣のごとく火鉢の中へ突き立てて、大胡坐《おおあぐら》で何か話し立てている。いつの間《ま》にか寒月君さえ来ている。主人は手枕をして天井の雨洩《あまもり》を余念もなく眺めている。あいかわらず太平の逸民の会合である。
「寒月君、君の事を譫語《うわごと》にまで言った婦人の名は、当時秘密であったようだが、もう話しても善かろう」と迷亭がからかい出す。「御話しをしても、私だけに関する事なら差支《さしつか》えないんですが、先方の迷惑になる事ですから」「まだ駄目かなあ」「それに○○博士夫人に約束をしてしまったもん
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