ちじ》るしい鼻だから、この女が物を言うときは口が物を言うと云わんより、鼻が口をきいているとしか思われない。吾輩はこの偉大なる鼻に敬意を表するため、以来はこの女を称して鼻子《はなこ》鼻子と呼ぶつもりである。鼻子は先ず初対面の挨拶を終って「どうも結構な御住居《おすまい》ですこと」と座敷中を睨《ね》め廻わす。主人は「嘘をつけ」と腹の中で言ったまま、ぷかぷか煙草《たばこ》をふかす。迷亭は天井を見ながら「君、ありゃ雨洩《あまも》りか、板の木目《もくめ》か、妙な模様が出ているぜ」と暗に主人を促《うな》がす。「無論雨の洩りさ」と主人が答えると「結構だなあ」と迷亭がすまして云う。鼻子は社交を知らぬ人達だと腹の中で憤《いきどお》る。しばらくは三人|鼎坐《ていざ》のまま無言である。
「ちと伺いたい事があって、参ったんですが」と鼻子は再び話の口を切る。「はあ」と主人が極めて冷淡に受ける。これではならぬと鼻子は、「実は私はつい御近所で――あの向う横丁の角屋敷《かどやしき》なんですが」「あの大きな西洋館の倉のあるうちですか、道理であすこには金田《かねだ》と云う標札《ひょうさつ》が出ていますな」と主人はようやく金
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