お》ったもののごとくに云う。「ところがその問題がマグネ付けられたノッズルについてなどと云う乾燥無味なものじゃないんだ。首縊りの力学[#「首縊りの力学」に傍点]と云う脱俗超凡《だつぞくちょうぼん》な演題なのだから傾聴する価値があるさ」「君は首を縊《くく》り損《そ》くなった男だから傾聴するが好いが僕なんざあ……」「歌舞伎座で悪寒《おかん》がするくらいの人間だから聞かれないと云う結論は出そうもないぜ」と例のごとく軽口を叩く。妻君はホホと笑って主人を顧《かえり》みながら次の間へ退く。主人は無言のまま吾輩の頭を撫《な》でる。この時のみは非常に丁寧な撫で方であった。
 それから約七分くらいすると注文通り寒月君が来る。今日は晩に演舌《えんぜつ》をするというので例になく立派なフロックを着て、洗濯し立ての白襟《カラー》を聳《そび》やかして、男振りを二割方上げて、「少し後《おく》れまして」と落ちつき払って、挨拶をする。「さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ。早速願おう、なあ君」と主人を見る。主人もやむを得ず「うむ」と生返事《なまへんじ》をする。寒月君はいそがない。「コップへ水を一杯頂戴しましょう」と
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