うさ、天井裏へでも隠したかい」と東風君は気楽な事を云う。
「天井はないさ。百姓家《ひゃくしょうや》だもの」
「そりゃ困ったろう。どこへ入れたい」
「どこへ入れたと思う」
「わからないね。戸袋のなかか」
「いいえ」
「夜具にくるんで戸棚へしまったか」
「いいえ」
東風君と寒月君はヴァイオリンの隠《かく》れ家《が》についてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。
「こりゃ何と読むのだい」と主人が聞く。
「どれ」
「この二行さ」
「何だって? 〔Quid aliud est mulier nisi amicitiae& inimica〕[#「〔amicitiae&〕」は底本では「amiticiae」]……こりゃ君|羅甸語《ラテンご》じゃないか」
「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」
「だって君は平生羅甸語が読めると云ってるじゃないか」と迷亭君も危険だと見て取って、ちょっと逃げた。
「無論読めるさ。読める事は読めるが、こりゃ何だい」
「読める事は読めるが、こりゃ何だは手ひどいね」
「何でもいいからちょっと英語に訳して見ろ」
「見ろは烈しいね。まるで従卒のようだね」
「従卒でもいいから何だ」
「まあ羅甸語などはあとにして、ちょっと寒月君のご高話を拝聴|仕《つかまつ》ろうじゃないか。今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅《あたか》の関《せき》へかかってるんだ。――ねえ寒月君それからどうしたい」と急に乗気になって、またヴァイオリンの仲間入りをする。主人は情《なさ》けなくも取り残された。寒月君はこれに勢を得て隠し所を説明する。
「とうとう古つづらの中へ隠しました。このつづらは国を出る時|御祖母《おばあ》さんが餞別にくれたものですが、何でも御祖母さんが嫁にくる時持って来たものだそうです」
「そいつは古物《こぶつ》だね。ヴァイオリンとは少し調和しないようだ。ねえ東風君」
「ええ、ちと調和せんです」
「天井裏だって調和しないじゃないか」と寒月君は東風先生をやり込めた。
「調和はしないが、句にはなるよ、安心し給え。秋淋《あきさび》しつづらにかくすヴァイオリンはどうだい、両君」
「先生今日は大分《だいぶ》俳句が出来ますね」
「今日に限った事じゃない。いつでも腹の中で出来てるのさ。僕の俳句における造詣《ぞうけい》と云ったら、故子規
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